遺言とは
遺言とは、被相続人(お亡くなりになられた方)が亡くなる前に最終の意思表示を形にし、その死後に実現を図るものです。
被相続人が自ら築いた財産の行方について、ご本人がお決めになる事ですから、それを尊重するのは当然の事です。
被相続人が遺言を残さなかったために、遺産分割協議において、兄弟姉妹間で争いや揉め事が起こり、兄弟姉妹が以後仲が悪くなるという話も少なくはありません。
相続問題が「争続問題」とならないように、未然に遺言を残しておく事はとても大切です。
しかし、遺言は人の死後に効力が生じるものであるため、一定の厳格な方式に従わなければなりません。
せっかくの遺言が無効にならないためにも、必ず法律で定められた方式によって行なわなけれなければなりません。
遺言の種類
民法には「遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、これをすることが出来ない」(民法960条)と定められています。
つまり、民法の定める方式に遵守していない遺言は無効となります。
遺言の方式には大きく分けて、普通方式と特別方式とに分かれます。
普通方式 | 特別方式 |
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自筆証書遺言 公正証書遺言 秘密証書遺言 |
緊急時遺言 隔絶地遺言 |
特別方式には、緊急時遺言(一般・難船)と隔絶地遺言(一般・難船)があります。
あまり聞きなれない方式ですが、この方式は、普通方式での遺言が困難な場合において、特別に認められた略式の方法であるため、遺言者が普通方式での遺言を作成出来るようになった時から6ヶ月間生存していた場合には無効となります。
普通方式には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります。
自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、全文を自分で書く遺言書のことです。
簡単で費用もあまりかかりませんが、全て自筆でなければならず、代筆やワープロなどによるものは無効となります。
ただし、単なる財産の記録である財産目録の部分はパソコン・ワープロでの作成ができるようになりました。(この制度は2019年1月13日より施行されています)
また、日付の記入がないものや、「令和○年○月吉日」といったように、日付が特定出来ない場合も無効となります。
また、署名や押印のないものや連名のものなども無効となりますので注意が必要です。
そして、令和2年7月10日より、法務局で自筆証書遺言の保管ができるようになります。
公正証書遺言
公正証書遺言とは、法務大臣に任命された公証人に遺言の内容を口述し、その内容に基づいて公証人が作成する遺言書の事です。
公正証書遺言は字を書くことが困難な方でも作成することが出来ますし、公証人という法律の専門家が作成しますので、内容的に不備がありません。
また、遺言書の原本を公証人役場において保管するため、偽造や変造、紛失の恐れがありません。
しかし、公正証書遺言の作成には2名以上の証人が必要になるので、遺言の存在とその内容を秘密に保つことは出来ません。
また、手続きが煩雑な上、公証人への手数料もかかります。
秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、遺言書の本文はワープロや代筆によるものでも構いませんが、自らがその証書に署名押印して封筒に入れ、証書に押印した同じ印鑑で封印を押し、それを持って2名以上の証人と共に公証人役場へ赴き、公証人に提出し、封書に本人、証人、公証人が署名押印して完成します。
しかし、この秘密証書遺言書は遺言の内容を秘密に出来るというメリット(長所)はありますが公証人役場で遺言の存在を証明してもらった後は、自らがその遺言書を保管しなければなりませんので、未発見や紛失してしまう恐れがあります。
それぞれにメリット、デメリットがありますので、ご自身にあった方式を選ばれる事が大事です。
メリット(長所) | デメリット(短所) | |
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自筆証書遺言 |
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公正証書遺言 |
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秘密証書遺言 |
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遺言にはそれぞれの種類により、書き方が定められています。
せっかく作成した遺言書に不備があって無効となってしまわないように注意が必要です。
自筆証書遺言の書き方
- 日付、氏名を含め、全文を自筆で書くこと
- 2019年1月に民法が改正され、別紙で財産目録をつけるときは、その目録はパソコンなどで作成できるようになりました(民法968条2項)。
- 銀行通帳のコピーや、不動産の登記事項証明書も目録として認められます。ただし、偽造防止のため、目録にも署名押印は必要です。
- 縦書き、横書きは自由で、用紙の制限もありません。便箋やノートに書いたものでも有効です。
- 筆記具も制限はありませんが、偽造、変造の恐れがある鉛筆やシャープペンシル、消えるボールペン等は避けた方がよいでしょう。
- 書いた遺言書は必ずしも封筒に入れる必要はありませんが、なるべく封筒に入れて表に「遺言書」と書いておくのが良いでしょう。
- 捺印は認印や拇印でも構いませんが、実印が好ましいでしょう。
- 加除訂正する場合は、訂正箇所を明確にして、その箇所に捺印の上署名すること。
公正証書遺言の書き方
- 証人2人以上の立会いのもの公証人役場に赴くこと。
- 遺言者が遺言の内容を公証人に口述(または筆談)すること
- 公証人がその内容を筆記し、これを遺言者本人と証人2人に読み聞かせ閲覧させること。
- 遺言者と証人2人が筆記された事が正確な事を確認した上で各自が署名押印すること。
- 公証人が証書を法定された手続きによって作成されたものである事を付記して、署名押印すること。
秘密証書遺言の書き方
- 自書またはワープロやパソコンで作成し、署名押印する(署名は自書でなければならない。)
- 遺言者自らが作成した遺言書を大き目の封筒(B5サイズ程度)に入れて、遺言書に押したのと同じ印鑑で封印をする。
- 遺言者がその封書を公証人1人と証人2人の前に提出し、自身の遺言書である事と、筆者の住所、氏名を述べる。
- 公証人がその封書を提出した日付と、遺言者の住所氏名を封書に記載し、遺言者、証人2人が署名押印する。
- 秘密証書遺言の現物は遺言者自らが持ち帰り保管する。
証人及び立会人になれない者
以下の方は証人及び立会人になれません。
- 未成年者
- 推定相続人及び受遺者並びに、これらの配偶者や直系血族の者
- 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用者
公正証書遺言とは
公正証書遺言とは、法律の専門家である公証人に作ってもらう遺言の事です。
法律の専門家である公証人が作成するため、方式不備で無効になるような事はありませんし、原本が公証人役場に保管されるために、偽造、変造の恐れないという安心があります。
また、家庭裁判所の検認を行わなくて良いため、遺言者がお亡くなりになった後、直ちに遺言の内容を実現する事ができます。
当事務所では、これまで数多くの公正証書遺言の作成をサポートさせていただいおり実績多数でございます。安心してご相談くださいませ。
公正証書遺言作成の流れ
遺言書の原案を作る
誰に、どの財産を相続させるか等、どのような内容の遺言にするかをメモ等に書き出し整理して原案を作る
証人2人を依頼する
信頼の出来る人2人に依頼する。適当な方が見当たらない時などには公証人に相談してみる。(推定相続人、未成年者、被後見人、被保佐人、公証人の配偶者及び四親等以内の親族、書記及び使用者は証人になる事が出来ません)
必要となる書類を集めます
遺言者の戸籍謄本、印鑑証明書、受遺者の戸籍謄本(親族以外の方でしたら住民票の写し)、財産に不動産が含まれている場合は登記簿謄本、固定資産評価証明書、預金通帳のコピー、証人の身分証明書(免許証、住民票の写し)などです。
公証人に依頼、打ち合わせ
事前に公証人役場へ赴き、公証人に遺言作成の依頼をします。このときに原案と必要書類などを持参します。出向けない場合などは出張をしてもらう事も出来ます。また、赴くのは遺言者本人でなく、代理人でも構いません。
遺言公正証書を作成する
公証人と打ち合わせた指定日に、遺言者と証人2人が公証人役場に出向く。または証人2人と公証人に出張してもらう。
遺言公正証書の完成
遺言書案は公証人があらかじめ用意しているので、当日は、公証人が遺言者から遺言の趣旨の口授を受け、その内容が用意されている遺言書案と相違ないことを確認の上、遺言者、証人2人が署名押印します。
遺言書の保管
作成された遺言公正証書の原本は、遺言者が120歳に達するまで、もしくは20年間の、どちらか長い方の期間、公証人役場にて保管されます。当日は遺言者に遺言公正証書の正本と謄本の2通が手渡されますので、大切に保管をしてください。
上記のような流れで作成された遺言書は、法律効果の安心と、公証人役場が原本を保管してくれる安心があります。
遺言書を作成した後に大切になのが、遺言書の「保管」です。
大切に保管しすぎて、結果発見されないというのでは困りますし、安易な場所に保管して紛失してしまったり、死後に偽造、変造されたりするのも困ります。
一般的には、配偶者や他の相続人が保管しているケースが最も多く、その他では、友人や共同経営者、また遺言執行者に指定している弁護士や行政書士に預けているという例もかなり多くあります。
また、銀行の貸金庫に保管している方も多くいらっしゃいますが、この場合は、遺言を貸金庫に預けてあることを誰かに知らせておくか、メモなどを残しておきましょう。
また遺言で「遺言執行者」を指定している場合などは、遺言執行者に預かってもらうのが良いでしょう。
遺言執行者とは
遺言執行者とは、遺言書の内容を実現する人の事を言います。
遺言書に書かれている内容、趣旨に沿って、相続財産を管理し、不動産などの名義変更の手続きを行なったり、その他各種の手続きを行ないます。
遺言執行者は遺言書で指定されている場合と、遺言書に執行者の指定がない時などは、家庭裁判所により選任される場合とがあります。
原則、遺言の執行は相続人全員でするのですが、遺言執行者を指定しておくことで煩雑な手続きを執行者に任せることが出来たり、相続人間の紛争を緩和することが期待できたりする事などがあげられます。
また、遺言執行者のみが執行できるものとして「認知」「推定相続人の廃除、排除の取消し」があります。
これらは遺言執行者しか行なう事ができず、遺言執行者が指定されていない場合などは、家庭裁判所に選任してもらわなければなりません。
遺言執行者を指定していなくとも、相続人が自分たちで執行できるものもありますが、遺言は時に相続人の間で利益が相反する内容もあり、相続人全員の協力が得られない場合が少なからずあります。
そういった時などには、遺言の内容を忠実に、かつ、公平に実行してくれる、第三者の遺言執行者を指定しておくことが大切です。
遺言執行者には誰でもなれますが、未成年者と破産者は遺言執行人にはなれません。
遺言執行者の仕事
遺言執行者は、相続財産の管理をはじめ、その他、遺言の執行に必要な一切の行為を行なう権利を持ちます。
また、遺言執行者がいる場合には、相続人は、遺言の対象となった相続財産の処分や、その他の遺言の執行を妨げるような行為は一切禁止されます。
この規定に反した相続人の行為は無効となります。
遺言執行者の任務
- 相続人や受遺者に対し、遺言執行者に就任した旨の通知を出す。
- 相続財産目録を作成する。
- 受遺者がいれば、遺贈を受け取るかどうかの確認を取る。
- 遺言により認知があった場合は、市区町村役場に戸籍の届出を行なう。
- 遺言に相続人を廃除する旨の記載があった場合、家庭裁判所に排除の申立てをする。
- 相続財産に不動産がある場合は、相続登記の手続きを行なう。
- 相続財産の管理、その他、遺言の執行に関する一切の行為を行なう。
最近は、遺言書を作成される方が増えておりますが、1人親に1人っ子で、その他の相続人がおらず、遺産が現金のみといったような場合は遺言を必要としないこともあります。
しかし、以下のような方は生前に遺言の準備をしておくべきです。
生前に遺言を準備しておくべき方
- お子様がいらっしゃらないご夫婦。
- 先妻との間に子供がいて、後妻を迎えている場合。
- 配偶者が成年被後見人や認知症だったりする場合。
- 子供たちで遺産分割協議をまとめるのが難しいと思われる場合。
- 子供の相続に差をつけたい場合。
- 条件付で相続または遺贈を行ないたい場合。
- 相続人の中に相続をさせたくない者がいる場合。
- 亡くなった子供の妻に財産を分け与えたい場合。
- 家業を継ぐ子に事業用の財産を残したい場合。
- 内縁の配偶者や、お孫さんなどにも相続させたい場合。
- 親族が誰もいらっしゃらない場合。
- 相続人以外にも財産を贈りたい(遺贈)場合。
- 相続人が誰もなく、世話になった方(団体)に遺贈したい場合。
などです。
上記以外にも遺言書を作成しておく必要があるケースがありますので、まずは専門家にご相談されることが良いでしょう。